まだ間に合う!中国向け越境 EC 入門

目次

1. 新政策で越境 EC 市場は一時足踏み

中国の IT 調査会社、易観国際のまとめによれば、2016 年第 2 四半期(4-6 月)の越境EC(輸入販売)市場規模は 686.4 億元で、前期に比べ 4.1%減少した。

越境 EC サイトの市場シェアをみると、モール型越境 EC サイトでは阿里巴巴(アリババ)グループの天猫国際(Tmall)と淘宝全球購(Taobao)がそれぞれ38.3%と32.2%のシェアを持ち、3 位の京東全球購(JD)の 18.1%と合わせて、市場の 9 割を占める。

アクティブユーザーは、天猫の前期比 15.6%増をはじめとしてプラス傾向にあるが、洋碼頭(yMatou)は 4.9%減と振るわなかった。

他方、独立直販型越境 EC サイトの市場ではシェアが分散しており、トップ 3 は網易考拉海購(kaola)、唯品国際(vip)、小紅書で、シェアはそれぞれ 17.1%、16.9%、16.3%と僅差だ。第 2 集団をつくる亜馬遜海外購(amazon.cn)、聚美極速免税店(JUMEI)、達令(daling)もシェアはそれぞれ 9.9%、9.8%、9.5%で、し烈な競争となっている。

アクティブユーザーの状況は、サービスによって大きく明暗が分かれた。網易考拉海購は、網易グループが提供するメールやニュース、音楽、ゲーム等のユーザーをうまく誘導したことが好調な伸びにつながった。

2. 越境 EC の進出パターンとは

日本企業が中国向けに越境 EC を始める場合、運営主体だけでも自社・中国法人・中国の代理店を利用・代行業者を利用といった選択肢があり、EC サイトも自社運営・モール型に出店・独立直販系 EC に卸売・マーケットプレイス型に出店と複数の選択肢がある。

さらに、事前に商品を中国各地にある保税区の倉庫に納入し、倉庫から発送する「保税区モデル」と日本から EMS(国際スピード郵便)等で発送する「直送モデル」のどちらを採用するのかについても、今あるノウハウやコスト、運営の負担などを含めて総合的に検討する必要がある。

一般的に中国向け越境 EC のハードルとして挙げられるものには、決済、返品対応、ユーザーサポート、物流、マーケティング、広告宣伝、モバイル対応、インターネット速度、頻繁に変更される法制度といったものがある。いずれも自社で乗り越えるには大変な労力とコストがかかるが、モール型 EC サイトに出店するのならばワンストップで解決できるだろう。もちろんそれぞれのサービスを専門で提供する会社があるので、社内にノウハウがある部分は自社で行い、必要なサービスのみをサポートしてもらってもよい。

このほかそれぞれの注意点として、すべて自社で行う場合、日本で国内向けの EC サイト運営を行うような感覚で中国語版 EC サイトを開設してもアクセスが増えず、売上につながらないという問題がある。どれだけ広告にお金をかけて認知度を高めたとしても、中国のインターネットはいまだに海外サイトの表示が遅く、とりわけインターネットの利用が集中する夜間にはまともにショッピングができる状況ではないためだ。このケースでは、中国国内あるいは近隣の台湾や香港にサーバーを置いて EC サイトを開設し、中国国内からのアクセスを改善する方法が対策の一つとして考えられる(中国法人の設立やサイトの届出登録などの手続きが必要になる場合があるためケースごとに確認が必要)。

中国の現地法人を利用する場合は、相応する営業ライセンスが必要になるものの自社での EC サイト開設も容易で、モール型 EC サイトへの出店も問題ない。ただし新たに現地法人を設立する場合、モール型 EC サイトの中には「(営業ライセンスを含む)必要な許認可を受けてから 1 年以上経過」等といった出店条件を設けているケースもあり注意が必要だ。

なおモール型 EC サイトの中でも天猫国際や京東全球購といった越境 EC専門モールであれば日本法人として出店できる。日本で有名な商品ブランドであれば優先して出店が認められるというが、モールとの決済(システム使用料の支払いや売上の回収等)は銀行口座ではなく、モール側が指定する中国の第三者決済サービスを利用しなければならず、「注文から何時間以内に発送」、「返品拠点を中国国内に設置」といったルールもある。

また現時点で中国法人がなく、新設する意向もない場合、現地企業と代理店契約を結んで代理店名義で卸売・出店することや、日本あるいは中国にある代行業者を利用することが考えられる。代理店が日常の運営や発送まで全てやってくれるのか、あるいは出店の名義だけで実際の運営や出荷は日本企業がやるのか、代行業者の場合も何をどこまで支援してくれるのか、これまでの実績を確認した上でのパートナー選びが大切だ。

3. 保税区モデルか直送モデルか

保税区モデルでは、消費者に対して品質の保証、国内 EC と変わらない送料と配送時間、容易な返品、価格の安さといった大きなメリットがあり、政府側も越境 EC の「正規軍(正規モデル)」と呼んで保税区モデルの拡大に力を入れる方針を示している。

2016 年 3 月には商務部が保税区の利用を前提とした越境 EC の税制変更とポジティブリスト方式による規制を行うと発表し、二度に渡って「越境 EC 小売輸入商品リスト」を公布した。具体的には、今まで適用していた行郵税を廃止し、ある程度の優遇措置を設けた上で一般貿易と同様に関税・増値税・消費税を課すとし、保税輸入についてはリストに掲載されている品目のみ輸入できるとした。

しかしリストにある商品であっても一般貿易と同様の通関手続きが必要とされているため、原産地証明書が用意できない商品や検査検疫を受けていない商品が保税区の倉庫から出荷できなくなるなどの混乱が生じ、売上の減少につながった。この事態を受け、当局は通関手続きに必要な書類の提出をおよそ 1 年後の 2017 年 5 月まで猶予すると発表している。

保税区モデルは消費者へのメリットが大きく、日本企業にとっても販売機会の拡大が期待できるが、保税区を利用するには基本的に現地法人の設立が必要だ。また中国での輸出入や積み戻しには対外貿易経営権(輸出入権)が必要となっており、自社の現地法人で届出登記するか、あるいは当該対外貿易経営権の届出登記をしている中国の法人・個人に代行してもらう必要がある。

新政策の施行は先延ばしされたが、各種証明書類の提出が必要となることに変わりはない。販売する商品によってどのような書類が必要なのか、その書類が手配できるのか、内容によってはメーカーや製造工場に協力を仰ぐ必要も出てくることから、税関での必要書類については早い段階で調査を始めたほうがよいだろう。特に化粧品やサプリメント類は国家食品薬品監督管理総局(CFDA)の許認可が必要とされ、その審査には数カ月から 1 年以上の時間がかかるとされる。なお現時点での対象商品は「越境 EC 小売輸入商品リスト」に掲載された約 1,300 品目に限られている。リストに掲載されていない商品は日本や海外から直送することで販売可能だ。

一方の直送モデルの場合、中国向けに配合やパッケージが変更されていない“海外で販売されている商品そのもの”が手に入る点は消費者にとって大きな魅力だ。海外の商品は安全で品質が良いというイメージが定着しており、為替の状況によっては割安感もある。爆買いや代理購入ブームでもわかるように、商品が届くまで少々時間がかかっても正規商品の価値には代えられないと考える消費者は多い。日本企業にとっては国内の在庫をそのまま使ったり、既存の海外倉庫から発送したりできるため、中国国内に設ける返品窓口だけを専門業者に依頼するなど比較的小さな投資で始められる。中国の輸入禁止物品でなければ「越境 EC 小売輸入商品リスト」にない商品でも販売・発送できることから、現地ではまだ手に入らない最新の商品を取り揃えれば他店との差別化につながるだろう。特に行郵税が 50 元以下で免税となる低価格商品、逆に単価が 2,000 元(約 3 万円)を超える高額商品については直送モデルの方が有利だ。

ただし、注文者が納税を拒否して返品となったり、税関で足止めされて配送が大幅に遅れたりすることが往々にしてある上、先日のように税制が突然変わるというリスクもある。さらに 2016 年 6 月 1 日からは、EMS(国際スピード郵便)の料金が 300~500 円引き上げられ、最低運賃も 300g 以内 900 円だったところ 500g 以内 1,400 円と約 1.7倍に値上がりしている。

保税区モデルと直送モデルどちらにも一長一短があり、商品によって使い分けている企業も多い。日本国内にも多くの進出支援サービスや出品代行サービスを行う事業者がある。一見同じように見えても、バックグラウンドが貿易会社なのか、マーケティング会社なのか、あるいは弊社のようにインターネット領域に強い企業なのかでサービスの内容は様々だ。輸出入手続きが不安なのか、集客が不安なのか、中国のインターネットサービス自体や許認可の取得が不安なのか、自社でノウハウのない最も心配な部分を得意とする事業者を選んで相談に行くのが良いだろう。

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この記事を書いた人

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