高まる介護ニーズ、中国政府はリハビリ補助器具産業の支援政策を検討

目次

1. 介護・リハビリ産業へのニーズ

中国国家統計局のまとめによれば、中国の人口は 2014 年末時点で 13 億 6782 万人に達する。このうち 60 歳以上の高齢者は 2 億 1242 万人で、全人口に占める割合は15.5%となっている。さらに 65 歳以上の高齢者は 1 億 3755 万人に上り、2035 年には4 億人を超えるとの予測もでている。2013 年時点で要介護状態にある高齢者は 3,750万人となっている(全国老齢工作委員会調べ)。

また国務院による第 6 回国勢調査データによれば、2010 年末時点で中国には 8,500 万人を越える障害者(中国語では「残疾人」と呼び、身体障害、知的障害、精神障害を含む)がおり、日本の障害者手帳にあたる“残疾人証”を持つのはこのうち約3,000 万人にとどまる。障害別では、視覚障害者が1,263 万人、聴覚障害者が 2,054 万人、言語障害が 130 万人、身体障害者が 2,472 万人などとなっており、障害の程度では重度障害者が 2,518 万人、中度および軽度障害者が 5,984 万人とされる。

なお、内閣府がまとめた平成 27 年版障害者白書によれば、日本の身体障害者数(推計)は 393.7 万人である。

経済成長や医療サービスの発展、高まる高齢化を背景に、介護・リハビリ用品へのニーズは増加している。政府も医療衛生サービスの産業振興や医療保険制度改革に取り組んでいるが、依然として医療格差・所得格差・制度格差は大きい。例えば車いすの年間販売台数は約 150 万台だが、このうち 100 万台は大都市で販売されている(中国リハビリ器具協会調べ)。日本での車いす製造販売台数がおよそ 48 万台(2013 年度)あることを考えると、中国における車いすの潜在的需要はかなり大きいと予測される。

2. 国務院が産業振興に本腰を入れる“意見”を発表

国務院は 10 月 27 日、「リハビリ補助器具産業の加速的発展に関する若干の意見(国务院关于加快发展康复辅助器具产业的若干意见)」を発表し、介護・リハビリ用品の消費拡大と産業発展を支援する方針を示した。具体的には、政府は法整備や支援政策の策定に注力し市場主導での成長を促すとしたほか、海外企業との積極的な協力による市場競争力の強化、製造力・ブランド・品質管理の刷新、商品の供給拡大などに取り組み、2020年までの目標として市場規模 7,000 億元突破を掲げている。

以降では、民政部社会福利・慈善事業促進司の報道官による、同意見についての解釈および追加説明を紹介しよう。まず同報道官は、同意見が発表された意義として次の 3点を挙げている。

同報道官によれば、2015 年時点の介護・リハビリ器具産業の規模はおよそ 4,300 億元で、内訳は商品が約 3,300 億元、サービスが約 1,000 億元だという。これには研究開発、製造、設置作業等が含まれており、具体的には義足、車いす、その他補助器具、ベッド、排泄ケア用品、メガネ類、補聴器、バリアフリー設備、各種自立訓練施設などが含まれる。関連企業の生産総額は年平均 15%の勢いで伸びており、2020 年には産業規模が8,600億元を越えると期待されるが、同意見では予測不可能な要素を考慮して2020年に達成すべき市場規模の目標を 7,000 億元に設定したという。

また同意見では産業のさらなる発展に向け新規参入や新製品の研究開発を奨励しているが、その一方で製品・サービスの安全対策も重要だとして次の 5 点を挙げている。

また市場拡大に向けた取り組みでは、現時点で行われている政策的支援として、工傷保険(いわゆる労働災害保険)で一部のリハビリ器具が支払い対象となっていること、北京・上海・深センなど特定地域では貧困状態にある障害者への購入補助制度が用意されていること、一部地域の基本医療保険では指定されたリハビリ器具が支払い対象となっていることの 3 点を紹介し、今後さらに次の4点を実施するとの考えを明らかにした。

3. 介護・リハビリ器具の対象範囲とビジネスチャンス

同意見の中では、介護・リハビリ器具の具体的な種類について言及していない。参考になるものとしては、国家食品薬品監督管理総局(CFDA)による「医療機械分類目録(2002版)」が挙げられる。この目録は現在見直しが行われており、2016 年 10 月 9 日に意見募集稿が公開されている。

意見募集稿では、介護・リハビリ器具について「言語視聴覚認知障害リハビリ設備」、「運動リハビリ訓練機械」、「歩行補助機械」、「義肢装具類」の四大分類に分け、20 種類92 品目を挙げている。身近なところでいえば、補聴器、介護用ベッド、四肢のリハビリ用マシン、電動車いす、手動車いす、松葉杖、歩行器、首コルセット、義肢(義指・義手・義足)といったものが含まれる。(关于征求康复辅助器具类医疗器械分类的函 http://www.crda.com.cn/gg/ggshow275.aspx)

また国家標準「リハビリ補助器具の分類と用語」(GB/T16432-2016)では、義肢や移動補助器具のほか、家具、コミュニケーション補助器具、家事補助器具、就業・職業訓練用器具、レクリエーション用補助器具など 12 分類 130 種類 794 品目を挙げている。(国家标准《康复辅助器具分类和术语》 http://www.crda.com.cn/news/newshow1016.aspx)

弊社が 6 月に発行したレポート「中国の介護用品市場」でも指摘したように、中国では高齢者向け商品や介護用品が充実しているとは言い難い状況が続いている。今回発表された意見では、国を挙げて福祉・介護分野の強化に取り組む姿勢をアピールしており、メーカーに海外企業との提携を推奨したり、模倣品に対する罰則の強化をしたりと外資導入に積極的だ。また工傷保険や医療保険の支払い対象とすることで介護・リハビリ器具の消費を拡大しようとの思惑もみえる。

明るい兆しが見えてきた一方で、日本の福祉器具メーカーにとって中国はまだ生産拠点としての位置づけにすぎず、販売先としてとらえるには情報収集が必要な段階であろう。現地でニーズがあっても品目によっては中国への輸入に際して品質認証や衛生認証を取得しなければならず、申請に時間がかかるケースもある。これらの手続きが必要ない越境 EC を活用する方法も選択肢の一つとして、情報収集を進めるのが良いだろう。

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